Updated : 2002/11/4

AO-40用ポーラーマウントの実験

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1.ポーラーマウント?

JR1HUO 相田さん作成の軌道計算ソフト Calsat32 に装備されている、n周期先までの衛星位置のプロット機能を使って遊んでいて、妙なことに気付きました。AO-40 の位置が、天球上のある1本の線付近に集中しているのです。

試しに、2001/10/25 から 20 周回分の AO-40 の位置を全てチャートに表示させてみますと、右 (→) の写真のようになります。近地点に近いわずかな時間帯は、仰角がやや低い位置を取りますが、それ以外は図のように、西〜南55度〜東の1線上に、上下5度程度の範囲内で収まっているのです。

AO-40 は打ち上げ後の推進系のトラブルで、軌道傾斜角の低い軌道に留まっています。このため、衛星の公転面は赤道面に非常に近く、地上からのみかけの位置は、静止衛星や月と同じような、天球上の1線上の位置を占めるようになる訳です。

と言うことは、複数の静止衛星切り替え受信システムや、月面反射通信(EME) などで使用されている「ポーラーマウント」方式で、仰角ローテータなしで AO-40 が追尾できるかも知れませんよね。

ポーラーマウントと言うのは、ポーラー(北極星)の名前が示すように、アンテナの回転軸を北極星に向ける(地球の自転軸と回転軸が並行になる)ことで、1軸の回転だけで、赤道面方向 180 度の全てにアンテナを向けるようにする、アンテナの駆動方式のひとつです。赤道面に近い位置を移動する月を使う月面反射通信(EME) や、静止衛星軌道上の複数の放送・通信衛星からの電波を切り替えて受信するためのアンテナなどに利用されています。

例えば右 (→) の写真は、通信衛星や放送衛星を受信するための中型パラボラアンテナ用のポーラーマウント金具の市販品ですが、設置位置の緯度によって決まる一定の仰角に、上下方向の角度を設定した後で、左右にアクチュエータを装着することで、東〜南×度〜西方向へのアンテナの移動を可能にします。ただし、残念ながらこの製品は可変範囲が狭いため、東西の水平線近くまで移動するアマチュア衛星には不適切です。

AO-40 の場合、低いとは言え軌道傾斜核はゼロではなく、また静止軌道ではなく長楕円軌道ですから、静止衛星や月と違って、厳密には、ある1線上にいつも存在する訳ではありません。観測点の位置関係によって、最大仰角には数度程度の変動がありますし、衛星が近地点に近づけば仰角は下がってしまいます。

しかし、ビーム幅が2度とか3度とかの大型 Dish を使うのであればともかく、45〜100cm 級の Dish やループ八木のシングル使用であれば、ビーム幅は5〜10度はありますから、そのビーム幅の範囲内に衛星が収まるような角度を取り、季節変化に合わせてそれを微調整できるようにさえすれば、仰角の多少の変動があっても、実用上気にせずに済むと思うのです。
また、近地点近くになると仰角は大きく下がりますが、衛星の姿勢が3軸制御されていない状況では、もともとこの時間帯はビームアンテナは地球を向いていませんので、ビーコン信号はロクに受信できません。当然、この時間帯にトランスポンダ経由で交信すると言うのも非現実的です。ポーラーマウントで追えないのは、全体の時間からすればごく一部なのですから、
この部分は「対応しない」と割り切っても、構わないと思うんですね。

そういう考え方からすると、1軸を回転させるローテータさえあれば、高価な水平・仰角追尾システムなしに AO-40 を遠隔追尾することが可能になると思うのです。

2.ポーラーマウントの実現方法を検討

では、具体的な方法の検討です。先述の通り、市販の金具の可変範囲は、構造上そんなに広くなく、100度かそこらです。水平方向の移動にアクチュエータと言う伸縮機構を使っているためですが、AO-40 の場合は、東西の地平線まで 180 度の回転が必要ですから、東西どちらか1方向だけと割り切るならともかく、ちょっと無理があります。

アマチュア無線用に市販されている水平ローテータは使えないものでしょうか?。仰角ローテータは、利用者が限られているだけに品薄で高価ですが、水平ローテータであれば、TV用の小型軽量のものから中・大型まで沢山ありますし、中古品も多数流通しています。これを「寝かせて」設置すれば、目的は達成できそうです。

で、左 (←) のような構造をまず考えてみました。

…しかし、ネックはローテータの構造です。傾けることを前提に設計されたものではないため、予定外の方向にかかる負荷にベアリングが耐えられるのか、斜めになることで水抜き穴が機能しなくなり、降雨時に内部モータが水没するのではないか…などなど。

この構造そのものも結構大柄で、うちのアラキの三脚を利用した簡易ベースにはちょっと向きません。

しかし、悩んでいても始まりません。防水とか負荷とかの問題は後回しにして、ポーラーマウントで AO-40 の遠隔追尾が、実用上問題無くできる、と言うことを検証するのが先決です。壊れてもいいような、中古の水平ローテータを使って、まずは試してみるべきです。

幸い、ローカル局から不要となった古いダイワのローテータ DR-7500 を譲ってもらいました。テストには少々重たいのですが、これを使ってみることにしました。

現在 80cm Dish を設置している、物干し台のアラキの三脚に装着することを前提に、軽くて小さくて(費用のかからない)、ローテータを約 55 度傾けるためのマウント金具が必要です。検討の結果、右(→) のような構造で、試しにやってみることにしましょう。

金具は、田舎のDIY店でも入手可能な 30cm のLアングルと 30cm の平アングル、同じく 30cm のイレクターパイプです。アングル同士の固定は標準のボルト・ナットで、アングルとパイプとはTV用のマウント金具で行います。

組みあがったのがこれ (←) です。

写真の左側、縦にある黒いパイプが、三脚のマストに相当する部分です。マストとはクロスマウントで固定します。

ローテータの傾きは、下側のLアングルとマストの取り付け位置の移動で行います。…が、とは言っても重たいローテータをつけた状態で調整ができないといけませんから、このままの構造ではマズいと思いますが…、まあ、それはまた後日考えることにしましょう Hi。

2001/10/28(日)、予報では終日雨とのことでしたが、降ったりやんだりの不安定な天気でした。ときおり雨がやむ時間があり、その合間を利用して、実際に物干し台の仮設ベースに設置してみました。

右(→)が組み立て途中に撮影した写真です。写真の左側が、ベースをマストに固定したところ、右側はそこにローテータを固定したところです。マウントはマスト軸の北側に配置されます。ローテータは 35 度に寝かせてあります。

ローテータの底面に開いている水抜き穴は、傾けて設置するため役に立ちません。そこで、ローテータのケーブル接続部分の絶縁ベースとパッキンの一部を切り欠いた上で、それが下向きになるような位置にローテータを固定しました。何らかの理由でローテータ本体内に浸入した水は、もともとの水抜き穴を空気穴として、ケーブル部分の切り欠きから排水されることに…なるだろうと期待しています。…ローテータの本体に穴をあけなおすのが正しい方法なんでしょうけどね。

続けてアンテナを配置します。まずは左(←)が、2.4GHz の受信に使っている 80cm Dish を装着したところです。モーターから離れた位置に取り付けると負荷が大きくなるので、マストクランプのすぐ上に固定します。

写真に写っている黒いマストは、海苔養殖に使われるグラスファイバー製の支柱で、6年以上前にサテライト用に購入し、倉庫で眠らせておいたものです。

さて、当初の計画では写真の (A) 部分に、アップリンク用の 435MHz の八木をセットするつもりでしたので、かなり長めに切りました。…が、実際にそこに 435MHz の八木をセットしようとしてみたら…ケーブルが届かないんですよ、とほほ。まあ、ケーブルを延長すると言う手もあるのですが、確かに (A) の位置にアンテナをつけるとアンバランスさが際立ちます。

そこで、435MHz の八木アンテナをもっと低い位置にマウントするため、横木を使うこととしました。

横木は今まで使っていた 120cm のイレクターパイプです。で、横木の一方だけにアンテナを装着すると、左右の重量バランスが取れません。そこで、背面から見て右に435MHz の八木、左にカウンターウェイトとして 1.2GHz のループ八木をセットすることにしました。これが右(→)の写真です。

実際には 1.2GHz のアンテナへは配線が行われていませんので、現時点では、バランスを取るための単なるオモリとしてしか機能していません。また (A) の部分は余計なので、近いうちに短く切り落とそうと思っています。

なお、風に対する抵抗力を向上させるため、三脚の足元にはコンクリートブロックを3枚置き、ブロックの穴に三脚の脚を指し込む (↓) 形を採用しました。


きれいに配置された AO-40 用アンテナ


横木のマウント状態

← 東/仰角0度

← 南東/仰角40度程度

← 南/仰角55度

← 南西/仰角40度程度

← 西/仰角0度
もうちょっとわかり易い写真を撮ってみました。横木は今まで使っていたものがそのままなので、先端のT字のアンテナ受け具もそのまま使えますから、11 エレクロス八木も 1.2GHz のループ八木もパチンとはめ込むだけです。風が強いときには外してしまえば受風面積を減らせます。あくまで物干し台の仮設アンテナなので、そういうところに融通が効くので助かります。

回転軸が傾いているうえに、左右に横木を出してビームアンテナ2本を支持していると言う構造から、このアンテナが回転する様は、壮観と言うか「異質」ですね。物干し台が広いからいいようなものの、マンションのベランダなどでは、とてもこのような形での設置はできないと思います。

ただし、2001年11月に行われた G6LVB のモナコ公国 (3A) での移動運用で使われたアンテナを参考にして、435MHz のアップリンクアンテナを Dish のビームと同軸上に配置することができれば、回転半径もそんなに大きくならずに済むかも知れませんね。


3.ポーラーマウント改修 (Updated 2002/5/27)

設置から半年ちょっとが経過し、心配していたローテータへの浸水も無く、このポーラーマウントシステムは問題なく動作しました。ローテータの左右の動きだけで AO-40 を追えると言うのは、なかなか秀逸で、とても楽に運用できます。

軌道が南に下がってきたが、AO-40 の軌道がだんだんと変化して、遠地点でのサブサテライトポイントが南緯7度あたりに来るようになり、AO-40 が描く天球上の線も、すこし南に移ってきました。2002年5月現在、線は [方位100度]〜[南天仰角47度]〜[方位260度] 付近となっていて、左の図のように、地球の自転軸を基準した場合の線 (オレンジ色) より、10 度程度南に下がっているんです。

実験中のポーラーマウントは、回転軸に直接 80cm Dish の軸を固定していますので、回転軸と垂直の方向しかとることができません。今までは、南中時の最大仰角と、回転軸を「寝かせる角度」とを合わせて対応していたのですが、東西の仰角の低い領域はその方法では補正ができません。当初は、AO-40 の位置はほとんど真東・真西にあったのですが、線の南下とともにビーム方向のズレが大きくなってしまいました。

AO-40 の軌道は傾斜角が低いため、対ヨーロッパや対アメリカなどの DX QSO をするためには、自分の位置がフットプリントの端にくるチャンスが必要です。このような場合、AO-40 は東あるいは西の低仰角に位置することになります。…となると、このままでは、このポーラーマウントは AO-40 での DX QSO に対応できなくなってしまいます。

簡単な対策としては、東西どちらかを犠牲にして、回転軸の方位をズラすと言う手があります。例えばうちのロケーションでは、西方向には山があり、もともとヨーロッパ方面へは無理があります。そこで、回転軸の向きを東に約 10 度傾けて、アンテナを真東まで下ろした時に方位 100 度を向くようにすれば、東〜南天までは対応できるでしょう。…でも、それでは西半分を捨てることになります。

回転軸への取り付け方法を変更した…で、上の図を見ていて…「ポーラーマウントの線より常に 10 度低いのなら、10 度の俯角をつけてアンテナを固定すればいいんじゃないか?」と言う事に気づきました。回転軸の傾きを補正するのではなく、回転軸は地球の自転軸にピッタリあわせておき、 AO-40 の遠地点付近のズレの分だけ、アンテナを下に向ければ…もんだいは解決しそうじゃないですか。

無論、AO-40 が常に 10 度下にある訳ではありません。長楕円軌道なのですから近地点付近では逆に北側に上がってくるはずです。が、近地点付近では衛星と地球が近いため、北緯 34 度付近らみた衛星の位置はもっと下に下がります。近づいて緯度が上がっても、見かけの位置は下がる訳ですから、結果として見かけの角度は打ち消しあって小さくなります。…それに、もともとこのポーラーマウントは、AO-40 が実際の通信には使いにくい近地点付近は「対象外」とする前提で採用たのですから、そこまで考える必要はありません。

北緯34度では自転軸の傾きは 56 度です。対して AO-40 の最大仰角は現在 47 度、ですから、与える俯角は9度が適切です。さて、どうやってその俯角を与えるか…。

答えは簡単でした。回転軸に Dish を直接固定しようとするから直角しかならないのです。回転軸をまずは水平のブームに装着し、そのブームに Dish を固定すれば、ブームと Dish との装着角度は自由に選べるようになりますので、これを9度下げてやればOKです。

幸い、このポーラーマウントには、UHF のアップリンク用八木を装着するため、水平のブームを1本通してあります。今までは [回転軸]→[Dish軸]→[ブーム] の取り付け順でしたが、これを [回転軸]→[ブーム]→[Dish軸] に変更するだけで済むじゃないですか (^ ^)。

取り付け部分早速、組替えてみました。回転軸とブームとをクロスマウントで交差状に固定、そのブームにクロスマウントで Dish の中心軸を固定しました。

この組換えでは副産物がありました。Dish の固定位置で回転させる場合、UHF アンテナの位置が片方に寄り過ぎるため、反対側にカウンターウェイトを装着してバランスを取る必要があり、使う予定のない 1.2GHz ループ八木を固定して済ませていたのですが、この方式だと Dish が回転軸の左右どちらかにズレてアンバランスになった分を、UHF 八木で打ち消す形になり、カウンターウェイトを不要にできます。不要な 1.2GHz 八木が無くなれば受風面積が減りますし、ブームを短くすれば回転半径も小さくなります。

とりあえず、今まで使っていたブームを再利用しましたので、UHF 八木の反対側が突き出してしまい、回転半径は小さくなっていませんが、負荷の削減には役立っているようです。コンバータの取り付け位置も写真のように変更しました。近いうちに、日光をさえぎる「傘」を装着して、日射の変動での温度変化による QRH を軽減させたいと思います。

2002/5/26(日)の午後にこの改修を実施し、翌朝6時の AO-40 の東向けのパス (MA=220 で通信はできませんでしたが) でビーコンを受信し、東向けに低い場合でもうまく衛星にアンテナを向けられることを確認できました。


4.ポーラーマウント撤去 (Updated 2002/11/4)

水平・垂直ローテータの設置に伴い、ポーラーマウントは撤去しました。


by Yoshihiro Imaishi JF6BCC/KH2GR
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